千字文
天地玄黃 宇宙洪荒 金生麗水 玉出崑岡
日月盈昃 辰宿列張 劍號巨闕 珠稱夜光
寒來暑住 秋收冬藏 果珍李柰 菜重芥薑
閏餘成歲 律呂調陽 海鹹河淡 鱗潛羽翔
雲騰致雨 露結為霜
一の一(1~18)
天は玄く地は黄色 宇宙は広く広大無辺 日月のぼり傾き欠ける 星や星座が並び広がる
寒さが来れば暑さが去って 秋に穫り入れ冬に備える あまりの年は閏年とし 調子笛 吹き日月ただす
雲が起これば雨をもたらし 露が凍れば霜柱 立つ 金を産すは麗水の岸 玉を出すのは崑崙の山
剣は巨闕 天下一品 珠は夜光が至上最高 珍重 果実 あんず やまなし 重宝 野菜 からしな しょうが
海は塩水 河は淡水 魚は潜り 鳥は羽ばたく
声調
四声八調
天子聖哲
平上去入
1.第一声 陰平
平音 ̄
2.第二声 陽平
高音へ ́
3.第三声 上声
上昇 ̌
4.第四声 去声
低音へ ̀
軽声
自然な発音
○平声
●仄声(上去入)
◎押韻
|
|
龍師火帝 鳥官人皇
愛育黎首 臣伏戎羌
始制文字 乃服衣裳 遐邇壹體 率賓歸王
推位讓國 有虞陶唐 鳴鳳在樹 白駒食場
弔民伐罪 周發殷湯 化被草木 賴及萬方
坐朝問道 垂拱平章
一の二(19~36)
龍師 太皞 火師は炎帝 官に鳥の名 少皞 人皇 はじめて文字を蒼頡つくる 上下の衣服
岐伯がつくる
位をゆずり国をも譲る 有虞の舜 陶唐の尭 民をあわれみ罪を責め伐つ 周の武王や殷の湯王
玉座に座して ただ道を問う 腕こまねいて天下 治まる 多くの民を 愛し はぐくみ 異民族らも 従い つどう
遠き近きが一体となり 地の果てまでも王に服する 鳳凰 樹に鳴き 白駒に乗って賢人きたる
徳化は覆う 草や木までも 王化はおよぶ よろずの国に
蓋此身髪 四大五常 信使可覆 器欲難量
恭惟鞠養 豈敢毀傷 墨悲絲染 詩讚羔羊
女慕貞絜 男效才良
知過必改 得能莫忘
罔談彼短 靡恃己長
一の三(37~50)
思うにこれら身体髪膚 元素より出て仁義そなえる 父母が育てた このからだをば どうして痛め傷つけようぞ
女は慕う清き貞操 男は学ぶ才知賢良 過ち知ればきっと改め 良いこと得れば忘れるなかれ
人の短所は話さぬように 自分の長所ほこらぬように 約束ごとは必ず守り 器量は深く度量は広く
墨子 悲しむ 糸が染まるを 詩経はほめる 官の節約
景行維賢 克念作聖 資父事君 曰嚴與敬
德建名立 形端表正 孝當竭力 忠則盡命
空谷傳聲 虛堂習聽 臨深履薄 夙興溫凊
禍因惡積 福緣善慶 似蘭斯馨 如松之盛
尺璧非寶 寸陰是競
二の一(51~68)
よき行いは賢人であり よき考えは聖人となる 徳さだまれば名もまた上がる 形ただせば表正さる
空虚な谷は声を伝える 静かな部屋は聴くこと習う 悪行 重ね 災い招く 善行 積めば 幸い来る
一尺の玉 宝にあらず 寸時を惜しめ これ競え 追え 父と同じに君に仕える これ尊厳と敬愛をいう
父母に孝行 力のかぎり 主君に忠義 命をつくす 臣は仕えて恐れ慎み 孝子は気遣う親の暮らしを
蘭の香りに似るを目指して 松の茂るが ごとく栄える
川流不息 淵澄取映
容止若思 言辭安定
篤初誠美 慎終宜令
榮業所基 籍甚無竟
學優登仕 攝職從政
存以甘棠 去而益詠
二の二(69~80)
川は流れて休むことなし 深みは澄んで 物影 映す 立ち居振る舞い
静かに動く 言葉遣いは落ち着き大事
初めに誠意しめすが美徳 終りつつしむ更になお良し これら教えの基づくところ 名誉 高まり 極まりしらず
学にすぐれて役所に仕え 官職を得て政治行う 人は善政たたえて慕い 去った後にも詩にして歌う
樂殊貴賤 禮別尊卑 仁慈隱惻 造次弗離
上和下睦 夫唱婦隨 節義廉退 顛沛匪虧
外受傅訓 入奉母儀 性靜情逸 心動神疲
諸姑伯叔 猶子比兒 守真志滿 逐物意移
孔懷兄弟 同氣連枝 堅持雅操 好爵自縻
交友投分 切磨箴規
三の一(81~102)
楽の音色は 高低 異にし 礼の教えは尊卑をわける 上が和めば下々むつむ 夫うたえば妻がしたがう
男子は外で師の教え受け 女子は家内で母に教わる もろもろの伯叔母 伯叔父 きょうだいの子ら わが子と同じ
大いに思う兄弟姉妹のこと 気を同じくし枝を連ねる 交友するに身分を捨てる 互いに切磋 いましめ正す
慈愛や情け いたわる心 いそがしくとも失うなかれ 節操道義 廉恥謙譲 とっさのときも欠くことなかれ
こころ静めば 心 安らぐ こころ動けば 心 疲れる まこと守ればこころは満ちる 物事 追えば こころ疲れる
正しい操しっかり持てば 官位爵位はおのずからつく
都邑華夏 東西二京 肆筵設席 鼓瑟吹笙
背邙面洛 浮渭據涇 升階納陛 弁轉疑星
宮殿盤鬱 樓觀飛驚 右通廣內 左達承明
圖寫禽獸 畫綵仙靈 既集墳典 亦聚羣英
丙舍傍啟 甲帳對楹 杜稾鍾隸 漆書壁經
四の一(103~122)
天子の都 東西 二つ 東 洛陽 西は長安 芒山を背に洛水を見る 渭水に浮かび涇水に拠る
宮殿そびえ集まり並び 楼閣 高く 仰ぎ驚く 鳥や獣 描いて写し 絹に鮮やか仙界の人
南の御殿 入り口 二つ 東の帳 柱と向かう 筵を敷いて座席を設け 大琴 弾いて 笙の笛吹く
階段のぼり 宮殿 入る 弁の珠 綺羅星のよう 右は通じる 図書 秘書 御殿 左は達す承明殿に
すでに集めし三墳五典(書物) さらに集める 学者 秀才 杜操の草書 鍾繇 隷書 漆で書いた 壁中 経書
府羅將相 路俠槐卿 磻
溪伊尹 佐時阿衡
戶封八縣 家給千兵 奄宅曲阜 微旦孰營
高冠陪輦 驅轂振纓 桓公匡合 濟弱扶傾
世祿
侈富 車駕肥輕 綺迴漢惠 說
感武丁
策功茂實 勒碑刻銘 俊乂密勿 多士寔寧
四の二(123~142)
役所に並ぶ 大尉 宰相 大路を挟む公卿屋敷 功臣 封ず 領地八県 家には兵士 千人 給う
高位高官 天子に同乗 車走らせ 冠纓 揺らす 代々仕え贅沢に富む 太った馬や
絹 皮衣
手柄を記し 名実 上げる 石碑に彫って
銘文 刻む 太公望や伊尹のように 政治を助け称号を得る
周公旦は曲阜に住んだ 旦いなければ誰が治めた 桓公 諸侯 集めて正す 弱小たすけ傾国すくう
綺里季は戻す 漢 恵帝を 傅説 補佐する 殷の高宗 才徳 備え 務めに励む 多士済済は国が安らぐ
晉楚更霸 趙魏困橫 九州禹跡 百郡秦并
假途滅虢 踐土會盟 嶽宗恆岱 禪主云亭
何遵約法 韓弊煩刑 雁門紫塞 雞田赤城
起翦頗牧 用軍最精 昆池碣石 鉅野洞庭
宣威沙漠 馳譽丹青 曠遠緜邈 巖岫杳冥
四の三(143~162)
晋 楚 こもごも春秋の覇者 趙 魏 苦しむ 戦国 秦に 虞の道 借りて 虢の国討ち 践土に集まり 盟約 結ぶ
蕭何は約す 法に遵い 韓非は煩なる刑に弊れる 白起 王翦 廉頗 李牧ら 軍を指揮して最も勝る
威力を匈奴 沙漠にしめし 絵画に描かれ 名誉 伝える 禹が中国を九州に分け 秦が百郡すべて併せる
山は恒山 泰山たっとぶ 祭天の儀は云亭の山 雁門山や長城紫塞 鶏田の沢 赤城の山
昆明の池 碣石の山 鉅野の沼沢 洞庭湖水 大地広大はるかに遠く 険しい山峰 杳として暗し
治本於農 務茲稼穡 聆音察理 鑑貌辨色
俶載南畝 我藝黍稷 貽厥嘉猷 勉其祇植
稅熟貢新 勸賞黜陟 省躬譏誡 寵增抗極
孟軻敦素 史魚秉直 殆辱近恥 林皋幸即
庶幾中庸 勞謙謹敕 兩疏見機 解組誰逼
五の一(163~182)
国の大本 農桑にあり 植えて刈り取る これにつとめる はじめて田畑 耕し起こし 舜帝 植える もち 黍 うるち
稲が実れば新穀まつる 賞を勧めて拙劣のぞく 孟子 養う おのれの元気 史魚は死んでも 忠直 守る
願うところは中庸の道 努めて譲り慎み諭す ことばを聞いてことわりを知り 顔色をみて 心 見分ける
よい考えを子孫に残す ただそのためにつつしみ励む 身を省みて 諌め 戒め 寵愛 増せば 驕りきわまる
恥辱 受けるは 名誉ではない 郷里に帰り住むが得策 疏広と疏受は足るを知って 官を辞めたが誰が責めよう
索居閑處 沈默寂寥 陳根委翳 落葉飄颻
求古尋論 散慮逍遥 遊鵾獨運 凌摩絳霄
欣奏累遣 慼謝歡招
渠荷的歷 園莽抽條
枇杷晩翠 梧桐早凋
六の一(183~196)
群れを離れて静かな場所に 人に知られずひっそり暮らす 古人 求めて 論議を尋ね 思いのままに散策をする
喜び集め悩みを払い 憂い しりぞけ 歓び招く 溝の蓮華は鮮やかに咲き 園の草木 枝葉を伸ばす
枇杷は晩翠 冬なお青し 桐は早凋 秋には枯れる 古い根株は衰え倒れ 落ち葉は風に飄々と舞う
遊ぶ大鳥 ひとり巡りて 夕焼け空に迫り越ゆく
耽讀 翫市 寓目囊箱 妾御績紡 侍巾帷房
易輶攸畏 屬耳垣墻 紈扇圓潔 銀燭煒煌
具膳飡飯 適口充腸 晝眠夕寐 藍笋象床
飽飫烹宰 飢厭糟糠 絃歌酒讌 接盃舉觴
親戚故舊 老少異糧 矯手頓足 悅豫且康
七の一(197~216)
市で立ち読み 楽しみ耽る 袋や箱の 書に目をつける 軽挙妄動 おそれるところ 壁に耳あり障子に目あり
料理を並べ あれこれ食べる うまくて腹が ふくれれば よい
たらふく食って料理にあきる 飢えたときには糠でも食らう
親戚縁者 旧知に旧故 老若男女 食を異にす 女の仕事 糸つむぎ 織る 妻ともなれば閨に仕える
むすめ外出 扇で隠し 夜 出るときは銀燭を持つ 昼寝のときは竹の敷物 夜 寝るときは象牙の寝床
琴ひき歌い 酒盛りをする さかずき交え 酒くみかわす 手を上げ 踊り 足踏み鳴らす 喜び合って更に楽しむ
嫡後嗣續 祭祀烝嘗
稽顙再拜 悚懼恐惶
牋牒簡要 顧答審詳
骸垢想浴 執熱願涼
驢騾犢特 駭躍超驤
誅斬賊盗 捕獲叛亡
七の二(217~228)
嫡子 長男 親の跡継ぎ 四季の祭りに先祖を祀る 頭 地に着け 二度 礼をする 恐れつつしみ敬い拝む
手紙 文書は簡易 簡潔 周り見回し答え詳しく からだの汚れ 水浴び望む 熱くなったら涼しさ願う
驢馬 騾馬 犢(こうし)特(牡牛) 驚き跳ねて とび越え走る
盗賊は罪 責め 斬り殺す 謀叛 逃亡 追って捕らえる
布射遼丸 嵇琴阮嘯 指薪修祜 永綏吉劭
恬筆倫紙 鈞巧任釣 矩步引領 俯仰廊廟
釋紛利俗 並皆佳妙 束帶矜莊 徘徊瞻眺
毛施淑姿 工顰妍笑 孤陋寡聞 愚蒙等誚
年矢每催 曦暉朗耀 謂語助者 焉哉乎也
璇璣懸斡 晦魄環照
八の一(229~250)
呂布や騎射 宜遼お手玉 稽康は琴 阮籍 口笛 蒙恬は筆 蔡倫 は紙 馬鈞 指南車 任公子 釣り
もつれるを解き 世間を利する ともに みなみな すぐれた人だ
毛嬙 西施 絶世美人 顰うるわし 笑い なまめく
年矢のごとく常に促す 陽 輝いて明るく光る きらめく星は移ろい巡り 月は隠れて また出て照らす
薪は代わるも火は滅びない 永久に安らぎ福につとめる 正しく歩き 首のばし待つ 宮殿内の立ち居振る舞い
朝服を着て威厳を保ち 行ったり来たり見上げ眺める 孤陋寡聞は道理に暗い 愚蒙ひとしく責め叱るべし
助辞というのは 語勢 助ける 焉 哉 乎 也 と これにて終る
『千字文』四言古詩 二百五十句
大学
大学之道、
在明明徳、
在親民、
在止於至善、
知止而后有定、
定而后能静、
静而后能安、
安而后能慮、
慮而后能得、
物有本末、
事有終始、
知所先後則近道矣、
大学の道は、明徳を明らかにするに在り、民を親しましむるに在り、至善に止まるに在り。
止まるを知りて 后 定まる有り、定まりて 后 能く静かに、静かにして 后 能く安く、
安くして 后 能く慮り、慮りて 后 能く 得。
物に本末あり、事に終始あり、先後する所を知れば、則ち、道に近し。
古之欲明明徳於天下者、
先治其国、欲治其国者、
先斉其家、欲斉其家者、
先脩其身、欲脩其身者、
先正其心、欲正其心者、
先誠其意、欲誠其意者、
先致其知、致知在格物、
物格而后知至、知至而后意誠、
意誠而后心正、心正而后身脩、
身脩而后家斉、家斉而后国治、
国治而后天下平、
古えの明徳を天下に明らかにせんと欲する者は先ずその国を治む。
その国を治めんと欲する者は先ずその家を斉う。
その家を斉えんと欲する者は先ずその身を脩(修)む。
その身を脩めんと欲する者は先ずその心を正す。
その心を正さんと欲する者は先ずその意を誠にす。
その意を誠にせんと欲する者は先ずその知を致む。
知を致むるものは物に格(至)るに在り。
物格りて后知至まる。知至まりて后意誠なり。
意誠にして后心正し。心正しくして后身脩まる。
身脩りて后家斉う。家斉いて后国治まる。
国治まりて后天下平らかなり。
『大学』
論語 卷第一
學而第一
子曰、
學而時習之、不亦説乎、
有朋自遠方來、不亦樂乎、
人不知而不慍、不亦君子乎、
子の曰わく、
学びて時にこれを習う、亦た説ばしからずや。
朋あり、遠方より来たる、亦た楽しからずや。
人知らずして、慍みず、亦た君子ならずや。
『論語』
論語 卷第十
堯曰 第二十
孔子曰、
不知命、無以爲君子也、
不知禮、無以立也、
不知言、無以知人也、
論語 卷第十 終
孔子の曰わく、
命を知らざれば、以て君子たること無きなり。
礼を知らざれば、以て立つこと無きなり。
言を知らざれば、以て人を知ること無きなり。
『論語』全十巻 二十篇 五百十二章
コメント
コメントを投稿